
3日間開催の今週末。13日には京都でスワンステークスが行われる。
過去の勝ち馬を眺めても強豪の名がずらり。筆者の目を引いたのは02年優勝馬ショウナンカンプ。2着リキアイタイカンに3馬身差をつけての逃げ切りは圧巻だった。
競走馬の“不思議”を体現してくれた馬だった。
3歳1月の中山ダート1800メートル戦でデビュー。何と勝ち馬から5秒差の11着大敗をいきなり喫した。この時点で、GⅠを勝つ未来を予想できた人はいなかっただろう。初勝利は4戦目。3歳夏の福島だった。
その後はダートの短距離戦に適性を見いだし、3歳12月の中山で3勝目。そして4歳の2月、転機が訪れる。
それまでの10戦は全てダートだったが、初めて芝にチャレンジした。その山城ステークス(1600万下)でショウナンカンプは後続に2馬身半差をつけ、あっさりと逃げ切ってしまった。2着はのちにGⅠを2勝するビリーヴ。今思えばハイレベルなメンバーだった。
続く、オープンの芝1200メートル戦も2馬身半差つけて悠々逃げ切り。ショウナンカンプは勇躍、02年高松宮記念へとチャレンジすることとなる。
芝の重賞はここが初挑戦。だが、藤田伸二騎手(引退)には自信があった。「この馬はスピードの絶対値が違う。スタートさえ決めれば結果はついてくる」
ゲートが開く。迷わずハナへ。2ハロン目、楽な手応えのまま10秒2のラップを刻む。2馬身後方で懸命に食らいつくアドマイヤコジーン(2着)、メジロダーリング(14着)とも手綱を動かしながらの追走だ。ショウナンカンプのスピードは他馬とは全く違っていた。
直線を向く。今見れば手前を替えていないのだが、それでも後続を全く詰めさせない。後続の脚音を全く聞かないまま、ショウナンカンプは3馬身半差をつけてフィニッシュラインに飛び込んだ。
「短距離ではスピードが違う。これからもこの馬でどんどん勝っていきたい」。そう語った藤田騎手は、芝での初勝利を飾った山城ステークスでも手綱を握り、勝った後、国本哲秀オーナーに「この馬で高松宮記念に行かせてほしい」と懇願したという後日談がある。GⅠでもトップに立てる芝での絶対的なスピードを準オープンの時点ですでに感じ取っていた。
大久保洋吉調教師(引退)は勝った瞬間、珍しく両手を高々と上げてガッツポーズをした。「こみ上げてくるものがあった。常にソエがつきまとった馬。今回はだいぶ治まっていたので、ひそかに期待していたんだ」
やはり、辛抱強くダートを使い続けたのは脚元の関係だったようだ。芝を使えるようになるまで待ち続けた陣営の根気には感服する。そういった辛抱がGⅠ制覇に結びついたのだと改めて思う。
デビュー戦で5秒もの差をつけられた馬が、ダートしか走ってこなかった馬が、きっかけを手にして一気にGⅠ馬へと上り詰める。競走馬は不思議だ、そして偉大だ。そんな重要なことをショウナンカンプから学ぶことができた。