エイシンフラッシュ
Eishin Flash
牡、2007年3月27日生まれ
父King‘s Best
母ムーンレディ(父Platini)
馬主/平井克彦氏
調教師/藤原英昭
生産牧場/社台ファーム
通算成績/27戦6勝
エイシンフラッシュとミルコ・デムーロ騎手が2012年秋の天皇賞後に見せた姿は、平成競馬を彩る名シーンとして今も語り継がれている。
この日、東京競馬場には天皇皇后両陛下がお見えになっていた。日本で近代競馬が始まって150周年にあたることを記念して、お二人そろって天皇賞を観戦されたのだ。優勝したエイシンフラッシュとともにスタンド前に戻ってきたデムーロ騎手は馬から降り、右手で手綱を持って馬を制止させた。ヘルメットを脱ぎ、その場で片膝をつくと、両陛下に向かって深々と頭をたれ、最敬礼した。時間が止まったような美しい情景だった。
デムーロ騎手がエイシンフラッシュとともにレースに出るのは、この日が初めてだった。2年前に日本ダービーで優勝を飾った後、長い間勝ち運に見放された。この間、2着は3度あったが、連敗は12にまで伸びていた。事前の調教で2度コンビを組んだデムーロ騎手は確かな手ごたえをつかんでレースに臨んでいた。レースは逃げるシルポートが作るハイペースで進んだ。中団を進んだエイシンフラッシュは最後の直線でぽっかりと空いたインコースに飛び込み、ゴール前ではフェノーメノとの争いを制した。
エイシンフラッシュはいわゆる「持ち込み馬」である。母馬のお腹の中に入った状態で来日し、日本で生まれたケースを持ち込み馬と呼ぶ。父のキングズベストは日本の皐月賞に当たる英2000ギニーの勝ち馬。母ムーンレディはクラシックレースであるドイツ・セントレジャーの優勝馬。欧州のGⅠ馬を両親に持つ名門血統といっていい。
2歳時を4戦2勝の成績で終えたエイシンフラッシュは3歳初戦の京成杯で重賞初制覇を飾る。しかし予定していたレースを体調不良でやめたため皐月賞はぶっつけ本番になってしまった。このため11番人気という伏兵扱いだったが、底力で3着に食い込んでみせた。続く日本ダービーでも7番人気にとどまったが、スローペースの中でじっとがまんし、ゴール前で鋭い末脚を見せ、ローズキングダム以下を下し、第77代日本ダービー馬の座に就いた。持ち込み馬の日本ダービー制覇はヒカルメイジ(1957年)、フサイチコンコルド(96年)、キングカメハメハ(04年)に次ぐ史上4頭目の記録だった。
日本ダービーと天皇賞・秋。GⅠ2勝をいずれも東京競馬場で飾ったエイシンフラッシュの特長は息子にも受け継がれた。22年11月に東京競馬場で行われた第42回ジャパンカップにエイシンフラッシュを父に持つヴェラアズールが出走した。GⅠレースに出走するのは初めてという直前に調子を上げた成長株だった。英国の名騎手ライアン・ムーアに導かれたヴェラアズールは最後の直線で狭い馬群の間を縫うように伸び、見事に優勝を飾った。エイシンフラッシュにとって産駒のGⅠ制覇はこれが初めてだった。産駒のGⅠ初勝利も父と同じ東京競馬場で達成された。